動物の診療 第13回 手術するか否か(モルモット)
(2019.5.23)

 お腹が大きく膨れているモルモットさん。お腹の中に腫瘤があり、すでにいくつかの病院で治療不可能と診断され、遠くからやってきました。

 レントゲンを見ると、体の左側に大きな塊があり、内臓は右側に押し込まれているようです。肺や心臓に異常はなさそうですが、体の内側から胸が圧迫され、呼吸が若干つらそうです。



超音波で内部を探索し、病巣の由来を調べようとしましたが、大きすぎてもはやコレがどこから発生してるのかよく解りません。腫瘤の周りに嫌な感じの太い血管が発達しています。血管の走行パターンと腎臓との位置関係からたぶん生殖器の腫瘍かもしれないという曖昧な予想。


治療の可能性があるとすれば手術ですが、このサイズの手術は切開も大きく、かなりの負担です。腫瘤が呼吸状態に影響を与え始めているのも不安材料です。さらにモルモットという動物はハムスターより麻酔や手術に弱いという印象があり、耐えられるかどうか微妙なところだと思いました。一方でレントゲンや超音波のレベルでは転移像は見つからなかったので、取り切れれば完治するという希望があります。

 どうするか葛藤するところですが、日に日に苦痛が増していく状態で生きていくより治療の可能性に賭けてみるということで手術することになりました。

 病巣の部位とモルモットの体形を考えると、牛や馬のような手術法がよさそうでしたので、体の正面ではなく、脇腹の切開(横臥位左兼部切開)でアプローチしました。

腫瘍に向かって太い血管が発達していて嫌な感じです。血管を次々に結紮して切断していきます。

左側子宮角の腫瘍でした。左右の子宮卵巣まとめて全て摘出します。
無事に摘出しました。手術前の体重が1.2kg、腫瘍が500gでしたのでモルモット本体は1200-500=700gということになります。中身が無くなった分お腹の皮がダルンダルンになってしまいましたが、元気に暮らしています。

モルモットは繊細でストレス、手術、麻酔に耐性が低い獣医師泣かせな動物です。生殖器の病気、特に卵巣の異常が多く、手術するかどうか私も飼い主さんもとても悩みます。

手術の是非は結局のところ結果論でしか語れないものがあります。上手くいけば手術して良かったと喜べますし、耐えられなかった場合は手術しなければもう少し生きられたのに・・・と後悔することになります。今回は結果オーライでしたが、このレベルの手術が毎回成功するとは限りません。遠い未来には獣医学も発達し、もう少し安定した治療ができるようになるかもしれませんが現状ではやや綱渡りな感じは否めません。